「例の松た、何だい」と主人が断句を投げ入れる。
「首懸の松さ」と迷亭は領を縮める。
「首懸の松は鴻の台でしょう」寒月が波紋をひろげる。
「鴻の台のは鐘懸の松で、土手三番町のは首懸の松さ…
鐘懸の松は先日訪れた里見公園にあると言う。
土手三番町は今でいう市ヶ谷のあたりだが、
首懸の松の存在は確認できない。おそらく迷亭のホラである。
首懸の松はないが首賭け公孫樹と言うのはある。
別に首を吊りたくなるわけではなく、
明治34年、道路工事の際に切り倒されようとした公孫樹を、
本多静六博士が俺の首を賭けても移植に成功させると、
日比谷公園に移植された巨木である。
OLYMPUS OM-D E-M5 MarkII + LUMIX G 20/F1.7 II SS1/250 F5.6 ISO200
移植は無事に成功し松本楼の隣に立っているが、
昭和46年、沖縄返還の際、過激派が投げた火炎瓶で
松本楼が全焼した際に、この公孫樹も黒焦げになってしまったが、
周囲の努力もあり奇跡の復活を遂げた。
今ではパワースポットとして知られており、
この樹が黄色くなるにはもう少しかかりそうだ。